子育て中の皆さんお疲れ様です。
自分の子供が他の子供を叩いたり、突き飛ばしたりしてしまう姿を見ると、親としては胸が痛くなり、どう接すればいいのか悩んでしまいますよね。
今悩まれている方やも今後に不安がある方もいらっしゃると思います。
今回はなぜ未就学児が暴力を振るうのかという背景から、効果的な対応方法、叱り方、そして未然に防ぐための方法までを解説していきます。
なぜ未就学児は暴力を振るうのか?
おおよそ3〜6歳の未就学児は、感情のコントロールがまだ発達途上の段階のため、暴力的な行動が一時的に見られることは珍しくありません。
感情や衝動のコントロールが未発達
未就学児は、脳の中でも「前頭前野」と呼ばれる、感情や衝動の制御を司る部位の発達が未熟です。
この領域は、論理的な思考や抑制行動、将来を見据えた判断などを担う部位ですが、完全に成熟するのは10歳前後と言われています。
アメリカの心理学者ロス・トンプソンは、「未就学児の攻撃的な行動は、自己制御が発達する前段階で起きる発達的に自然な行動であり、経験を通して学んでいくもの」と述べており、つまり、叩く・押すといった行為は、自分の欲求や感情を相手に伝える手段として、未熟な中で選んでいる方法ということになります。
我慢する力が育っていない
例えば「順番を待てない」「思い通りにならないと怒る」など、未就学児は脳の発達や経験不足、自己認識・他者理解の未熟さから「我慢する力(フラストレーション耐性)」が育っていないことが多くあります。
そのため、友達とトラブルになった時、我慢が出来ずに手が出てしまうということにつながってしまいます。
自己中心的な思考
この時期の子供は「自分と他人の違い」や「相手の気持ち」を正しく理解することがまだ難しい段階にあります。
発達心理学では「自己中心性」と呼ばれる特徴で、自分の視点を他人に投影してしまうため、「叩くと相手がどう思うか?」までは想像できない場合が多くあります。
他者の視点に立つ能力は4〜5歳から徐々に芽生えるため、それまでは自分の欲求が通らないこと自体が「意味不明で理不尽」だと感じやすいことも原因になります。
言葉で表現する力が足りない
未就学児はまだ語彙力や表現力が限られており、自分の感情や欲求をうまく言葉で伝えることができません。
「やめて」「貸して」「今使ってるよ」と言いたくても言葉が出てこないと、代わりに「手が出る」などの体を使って主張しようとしてしまうのです。
周囲の影響による模倣
子供は目の前の行動をそのまま真似する力に長けています。
とくに未就学児は「どうすれば自分の気持ちを通せるか」を周囲から学ぶ時期。
親の怒鳴り声や兄姉とのケンカ、テレビアニメの中の暴力表現など、日常の中にある「攻撃的なモデル」を真似してしまうこともあります。
心理学者アルバート・バンデューラの「社会的学習理論(1977)」では、「人は観察と模倣によって学習する」とされており、周囲の行動モデルが子供の行動に大きな影響を与えることが示されています。
親ができる対応方法
まずは冷静にその場で止める
暴力行為を見かけたら、まずは冷静にしっかりと制止しましょう。
子供の肩や手を優しく止めながら「やめようね」と低く安定した声で伝えるのが効果的です。
制止する際に怒鳴ってしまってはいけません。
怒鳴ると子供は「怒られた恐怖」だけを感じてしまい、「なぜ怒られたのか」が理解されにくくなります。
とくに興奮状態のときは、叱るよりも「落ち着かせる」ことを優先しましょう。
感情を言葉にしてあげる
叩いた行動だけに注目するのではなく、その背後にある感情に寄り添いながら、例えば「悔しかったんだね」「おもちゃを取られて嫌だったね」など子供の気持ちを代弁してあげましょう。
これは心理学でもよく使われる「感情のラベリング」と呼ばれる方法で、子供自身が自分の感情に気づき、将来的にその感情を言葉で伝える力を育てるためのステップになります。
このような関わりは、幼児の社会的スキルや自己調整力の向上に有効だとされ、アメリカの応用発達心理学者による研究でも実証されています。
相手の気持ちに気づかせる
ただ叱るだけでなく、「○○ちゃんは叩かれて痛かったね」「びっくりして泣いちゃったよね」と相手の気持ちを想像させるような声かけをしてあげましょう。
相手の気持ちに気づかせる声がけは「他者視点の育成」として非常に重要で、子供の共感力や道徳性の発達にも役立ちます。
アメリカの発達心理学者であるアイゼンバーグ氏は、共感能力が高い子供ほど攻撃的行動が少ないという研究結果を報告しています。
代わりにどうすればよかったかを教える
「手が出る前にどうしたらよかったかな?」と問いかけながら、「“やめて”って言う」「大人に助けを求める」「深呼吸する」など、感情を表現する別の手段を具体的に教えましょう。
これにより、暴力を使わずに自己主張する力「非攻撃的な自己表現スキル」を育てることができます。
これは自己制御スキルの発達を促すアプローチで、社会情動学習でも重要な要素とされているため、しっかり子供にわかるように教えてあげましょう。
一貫性のあるルールと対応
その場の気分で許したり、厳しく叱ったりすることは子供に混乱を与えてしまい、暴力を振るった後にも同様の対応をしていると、子供は「叩いても大丈夫なときがある」と誤解してしまいます。
どの場面でも「暴力はいけない」「言葉で伝える」というルールをブレずに伝えることが大切です。
行動療法でも、子供の問題行動への対応には「子供にとって予測可能で一貫した態度」が有効であることが示されています。
そのため、「暴力は絶対にダメ」というルールを家庭内で一貫して伝えることが、子供の安心感と行動修正に効果的です
効果的な叱り方とは?
子供が暴力を振るってしまった時、親としてしっかり叱る必要がありますが、叱り方にはコツがあります。
ただ感情的に「怒る」だけでは、子供の心に響きにくいばかりか、逆に反抗的な態度を引き出してしまい、結果的に逆効果にもなります。
ここでは「怒る」ではなく、「叱る」コツについて解説していきます。
避けたい叱り方
叱り方を間違えてしまうと、逆効果どころか子供の成長に悪影響を与えかねません。
ここでは避けるべき叱り方を紹介します。
大声で怒鳴る
大声で怒鳴るのは、親側の感情を発散する目的が強く、恐怖により一時的にはやめますが、長期的な効果は期待できません。
恐怖で押さえつけても根本的な理解につながらないため、子供が委縮したり成長の妨げになります。
詰問する
感情をおさえられなくなったりなど暴力を原因はあるはずですが、未就学児では脳の発達が未熟なため、その理由を問い詰めてもうまく説明することは難しいです。
「なんでそんなことしたの!」と詰問しても委縮するばかりで、逆効果になります。
人格否定
「バカ」「悪い子」など人格を否定する言葉を投げかけても、子供は「なぜ暴力がいけないか」について理解することはありません。
この言葉も親が感情をぶつけているにすぎず、子供の自己肯定感の低下にもつながるため、人格を否定するのは避けましょう。
他の子供と比較する
「○○ちゃんはできている」など他の子供と比較しても、意味が無いどころか子供の自己肯定感を下げ、劣等感を感じてしまいます。
「どうしてうちの子だけ」というママやパパの気持ちもあるとは思いますが、自分の子供にだけ目を向けるようにしてあげましょう。
一方的に決めつける
「○○はこうだから」「こう考えていたんだろ」などママやパパの一方的な考えで決めつけてしまうのは、非常に危険です。
その考えが間違っていた時には根本的な解決ならず、子供も不満を抱えてしまったり、納得して理解することが難しくなり、かえって「暴力」という問題を複雑にしてしまいます。
効果的な叱り方コツ
間隔を開けずに叱る
乳幼児は記憶の保持時間が短いため、叱るタイミングが遅れると因果関係を理解できません。
そのため、暴力の直後に伝えることで、子供は「行動と結果のつながり」を理解しやすくなるため、時間を空けずに対応するようにしましょう。
行動を限定して叱る
「叩いたことはいけないことだよ」と明確に指摘してあげることで、子供も何がいけないことなのか理解しやすくなります。
遠回しな言い方を避けて問題点にフォーカスしてあげましょう。
短く、冷静に伝える
話しが長くなればなるほど、子供は最初の部分を忘れてしまったり、話の内容を整理できずに間違った理解をしてしまいます。
落ち着いたトーンで、端的に伝える方が子供は理解しやすいため、効果的です。
「叩くことはいけないことだよ、○○だからね」など「いけないこと」+「一番の理由」を端的に伝えることを意識しましょう。
叱ったあとにフォロー
「あなたが優しいって知ってるよ」などを伝えてあげることで、安心させてあげましょう。
良いところも悪いところもしっかり見ていて、「あなたのことを認めている」というメッセージを送ってあげることで、子供は安心感を感じ、情緒の安定にも役立ちます。
暴力を未然に防ぐ方法は?
できれば暴力は未然に防いでおきたいですよね。
ここでは日々できる予防策について解説していきます。
日常のストレスケア
空腹や睡眠不足、刺激が多すぎる環境などは、子供のストレスやイライラの原因になることがあります。
子供だからストレスを感じないなどとは考えずに、規則正しい生活リズムを整え、過度な緊張や疲労を避けるようにしましょう。
よい行動をしっかり褒める
暴力をしなかった、言葉で伝えられたといった小さな成功体験をしっかり認めることが大切です。
心理学者スキナーの「オペラント条件づけ理論」によると、望ましい行動は強化することで繰り返されやすくなります。
夜寝る前の10分だけでも時間を確保して、今日の良い行動を褒める時間を作ってあげるのも効果的です。
絵本やロールプレイを活用する
「叩いたらどうなる?」「言葉で伝えるとどうなる?」といった内容の絵本や、ぬいぐるみを使ったごっこ遊びを通じて、感情や行動のコントロールを遊びながら学ぶことも効果的です。
日々の遊びは繰り返すことが容易ですし、遊びから学ぶことは楽しさもあり印象に残りやすいため、取り入れてみましょう。
専門機関への相談も視野に
もし暴力行為が頻繁だったり、強い衝動性が目立つ場合には、発達障害(ADHDやASDなど)や環境要因の影響も考えられます。
心配な場合は、小児科医、児童発達支援センター、臨床心理士などに相談してみましょう。
まとめ
未就学児の暴力行為は、発達の途中に見られる一過性の行動であることが多く、ママやパパの対応次第で改善することもあります。
今回叱り方についても解説していきましたが、叱ること以上に感情を認めて寄り添い、言葉での伝え方や共感する力を育てていくことが何より大切です。
「叩いちゃダメ!」と怒鳴る前に、「なんで叩いたのかな?」「どうすればよかったのかな?」と一緒に考える姿勢を持ちましょう。
また、暴力をふるって傷つけてしまった相手への謝罪や配慮も重要になってきます。
親として相手の子供やご両親にしっかり謝罪する姿勢を自身の子供にも見せることは、とても大切なことなので、大人としての対応をしっかりとしていきましょう。