子育てを始めるともしかしたら親や知り合いから「子供を動物園に連れて行くとアレルギーに免疫がつくから連れて行ったほうがいい」などの話を聞くかもしれません。
少しでも知識があれば、免疫を獲得するほど高頻度で連れていけるわけあるかい!とツッコミを入れたくなるウソですが、新米ママパパ以外にも医療関係者でも意外とこのこと信じている人がいて驚いたので、今回は動物園に連れて行くとアレルギーに対して免疫が獲得できるのウソについて共有します。
最初に結論
結論として、乳幼児や幼児期に子供を動物園に期間を空けて数回連れて行っただけでは免疫の獲得はできません。
そもそも免疫を獲得するためには、高頻度で連れて行かなければならないためです。
日常的に動物園に連れていけるなら効果がありますが…
アレルギーの抑制に効果がある「エンドトキシン」と呼ばれる物質が動物の糞などに含まれることから、この話が出ていると思われますが、「エンドトキシン」はLPSと同義で日本では内毒素なんていわれており、傷口から入ると敗血症などにかかる、なかなか危ないものです。
動物園ではそのほかにも様々なアレルゲン、トキソプラズマ症、サルモネラ症などの感染症にかかるリスクもあり、手洗いうがいできない、動物や設備などを触った手を口に入れてしまう可能性があるなら、連れていくタイミングにも注意が必要です。
動物を家で飼うと免疫がつくも迷信?
余談ではありますが、家で動物を飼うとアレルギーに対して免疫がつくという話もあるそうですが、これは実際に「大きな犬を2匹以上飼っているとアレルギーになりにくい」という論文もあるそうで、良い効果も期待できるようです。
飼っている動物によりトキソプラズマなどに注意が必要になるため、一長一短はあるようです。
乳児期に犬や猫を飼うと、呼吸器疾患やアレルギー発症の予防効果があると、これまでの研究でわかっています(下のグラフを参照)。清潔過ぎる環境で育つよりも、ペットが持つさまざまな菌に触れることで、免疫力が向上し、病気になりにくい身体になると考えられているのです。
「ロート製薬オンライン」様より引用
なぜこのような迷信が出てきたのか
この迷信を調べるうちに、分かった内容であくまで予想ですが、2008年に放送されたNHKスペシャルなどのメディア影響が大きいと思われます。
解釈の違いや、分かりにくい表現などでこのころから迷信が生まれたのではないかと思われます。
とは言え、全部が間違っているというものではなく、ちゃんと動物との触れ合いによるアレルギーの研究、調査は行われています。
たぶん元ネタ
「環境衛生が良くなって乳幼児期に感染症のリスクが低下していることが、花粉症の増加につながっている」という、「衛生仮説」と呼ばれる考え方があり、それを裏付けるデータとして、「家畜に接している子はアレルギーになりにくい」という研究があるようです。
オーストリア・ザルツブルグ大学では、10年以上にわたって地元の子供たちに対するアレルギー調査が行われている。調査の結果、農家の子は農家以外の子に比べ、花粉症、ぜんそくになる割合が極めて低かった。調査を行ったザルツブルグ大学のヨセフ・リーデーラー博士は、普段から家畜小屋によく出入りしている子たちには、アレルギーになっている子が少ないことがわかりました。
ドイツ・オーストリア・スイスの3カ国で子どものアレルギーに関する研究を行ったミュンヘン大学のエリカ・フォン・ムーチウス博士の調査によると、アレルギーでない子どものマットレスから、「エンドトキシン」と呼ばれる成分が見つかり、「エンドトキシン」は大腸菌などの細菌を覆っている膜の成分で、家畜小屋の空気中に大量に漂っている成分であり、エンドトキシンの量が多い家に住んでいる子どもの方が、アレルギーが抑制されやすい傾向があるそうです。
エンドトキシンとは?
先ほどから出てきている「エンドトキシン」ですが、細菌に関連したもので、アレルギーの抑制にも役立つもののようですね。
では、具体的にどのようなものなのか情報を集めてみました。
専門てきな部分のため、素人にはわかりにくい内容になっていますが、引用した内容の下にすごく簡単、大雑把にまとめた内容も紹介しています。
歴史的には、1892年 Pfeiffer がコレラ菌(1883年にKochによって発見された)の耐熱性毒素について菌体に由来するものとして命名したのがはじめといわれています。“endotoxin”はギリシア語の“endo-”「内部の」と英語の接尾語“-toxin”「毒素」を組み合わせた造語で、日本語では「内毒素」と訳されます。
細菌が生きて産生し「外部」に分泌する毒素が「外毒素」であるのに対し、細菌が死んだ後に菌体の細胞壁が壊れて「内部」に存在する細胞膜の構造が毒素として作用するところから「内毒素」と呼ばれています。内毒素を持つ細菌はグラム陰性菌と呼ばれるグループの細菌で、発見の元となったコレラ菌をはじめ赤痢菌,チフス菌などが含まれます。いずれの細菌もその毒素となる部分は共通で細胞壁の成分、細菌表面の毛のようなリポ多糖体(LPS)の根元のリビドAと呼ばれる構造です。
エンドトキシンはピコグラムやナノグラム単位という微量でも血液中に入ればマクロファージや樹状細胞などの免疫担当細胞に作用し、体に発熱をはじめ種々の生体反応を引き起します。大量にエンドトキシンの混入があるとエンドトキシンショックと呼ばれるショック状態に陥るなど命に関わる重大な影響を及ぼします。
「Lab BRAINS」様より引用
エンドトキシンとは、グラム陰性菌(大腸菌や赤痢菌、サルモネラ菌、レジオネラ菌、その他にも多数の種類があります。)の細胞壁を構成しているリポ多糖(リポポリサッカライド 通称LPSと呼びます。)のことで、日本語では内毒素と呼ばれています。
グラム陰性菌が生きている間には増殖時(細胞分裂時)に少量が、菌が死んだり破壊されると、細胞壁から大量に分離し、人体に様々な問題を引き起こします。なお、細菌が生きている間、生存活動を行うために放出する毒素のことはエキソトキシン(日本語では外毒素)と呼びます。
エンドトキシンを除去、または失活させるのは大変困難で、250度以上の高温で30分以上の加熱が必要となります。エンドトキシンはグラム陰性菌がいる場所には常に存在しており、例えば我々が普段口にする食べ物や飲み物の中にも大量のエンドトキシンが含まれていると言われています。(調理によってグラム陰性菌が死滅しても、エンドトキシンは失活しない為。)しかし、食べ物に含まれるエンドトキシンは、人体の健康状態や摂取した量にもよりますが、腸のバリヤ機能により、体内へはほとんど吸収されず、また、吸収された場合でも少量であれば肝臓で分解され、無毒化されると言われています。
一方、傷口などから、体内に直接エンドトキシンが大量に入り込むと、敗血症などを引き起こしてしまい、最悪は死に至ります。その為、体内に直接装着する医療機器や、注入する医薬品などは、エンドトキシンフリーであることが必要になります。
「医療用プラスチック成形.com」様より引用
要約すると?
どうすれば免疫がつくの?
アレルギーに対しては子育てしていれば誰しも気になるものですが、事情により動物を飼えない場合にもできる対応があります。
それは「土いじり」です!
土には微生物がたくさんおり、種類も豊富なうえに手軽にできて子供も楽しめるから、免疫獲得にはもってこいなのです。
どろんこ遊びやお砂場で遊ぶのも同様の効果が期待できるようなので、活用しない手はないですね。
土いじりの有用性は名城大学などでも研究されているようで、一部抜粋してご紹介します。
感染すると自然免疫が働くと同時に、獲得免疫ができます。免疫が病原体の毒力に負けないバランスを保つには、免疫を「鍛える」ことが必要です。鍛えるというのは、獲得免疫の種類を増やすと同時に、さまざまな種類の免疫細胞がリレーのように免疫システムを動かす際の連携を良くするという意味です。幼児に土いじりをさせると丈夫に育つと言われるのは、土壌中に存在する多様な微生物を体内に取り入れることで免疫システムが鍛えられるためです。
「名城大学」様より引用
大人も免疫を鍛えることは可能です。ただし、免疫系に疾患のある方や免疫力が低下した高齢者は別です。また、微生物には毒素を産生するものもあるため、注意が必要です。
遊び終わった後は手洗いうがいは忘れずに、汚れた服は外でよくはたいてから洗濯機に入れてくださいね。
まとめ
「動物園に連れて行くとアレルギーに対して免疫が獲得できる」はウソで反対にリスクも多いですが。
シンプルに楽しむ目的で連れて行ってあげてください。
本物の動物を見たり触ったりしたときの楽しそうな子供の顔は、見ているこちらも幸せになれるので、写真にも納めて家族の思い出にしてください。
子供が楽しめていれば「また行きたい」「連れてって」のコールが聞こえてくると思いますが、それはママとパパへの愛情表現です。